ingakouryuu’s blog

心象スケッチ

家族

仏壇の中から

団地ではとある宗教団体の座談会が定期的にあり、幼い頃は家族三人で参加していた。私はおやつ目当てによくついて行く。母は仏壇に手を合わせて熱心に念仏を唱えている時期があった。私も真似をして念仏を唱える。 仏壇は団体から買ったのか借りているのかよ…

我が家の猫たち

『愛してナイト』のジュリアーノそっくりな野良猫を拾うが、母に気に入ってもらえずその日のうちに野に放たれる。 ラグビーの部室に住みついていた病気の野良猫を兄が持ち帰り、『空色みーな』の主人公と同じ名前でミーナと名付けて飼うが、成猫の野良を拾う…

寂しさから

働き始めると少しは自由に使えるお金ができる。 友人と遊びに行く準備をしていたら、いつの間にか母に財布からお金を抜き取られていることがあった。遊びに行った現地で財布に五千円しか入っていないことに気づいて慌てる。母が取った金額は七千円で返してく…

立膝

小学校低学年までは週に1、2回のペースで母と一緒に銭湯に通っていた。しかしいつの間にか母は一年に一度くらいしか風呂に入らなくなった。久々の銭湯に行くと何時間もかけて垢を落とす。銭湯に迷惑がかかっていないか心配するほど肌の色が白くなって帰って…

反面教師で学んだもの①

私の道徳は反面教師で培われた。母が万引きして警察のお世話になった時も私は淡々と生きていた。なぜかはわからないが自分をかわいそうだと思うことはなかった。しかし周囲の人たちが「えらいね」「苦労してるね」と言ってくることがあり、その度に意味がわ…

リコ

チコが死んでから間もなく母がまた交配目的で血統書付きのシェルティを飼い始めた。名前は「リコ」。リコは子を産むが、当時飼っていた猫にほとんど殺されてしまい、気づいた時には一匹だけ生き残っている状態だった。売られる予定だったため名前は付けずに…

つっかけの音

母は年中つっかけを履いていた。擦り切れて四角いマス目の骨組みがむき出しになった左右のかかとには小石が2、3個詰まっていて、歩くたびにカラカラ音がしていた。「お母さん、かかとに小石が入ってるよ」と言うと「お前たちのせいでお母さんはこんなこと…

チミ

鳩でもいいから飼いたいと無茶をしてからその後、セキセイインコや文鳥が我が家にやってきた。兄は相変わらずで、鳥を頭から口でくわえると、そのまま持ち上げて高い高いして可愛がっていた。しかしどの鳥も皆数か月で死んでしまい、長生きすることはなかっ…

バイオニック・ジェミー

バイオニック・ジェミーのオープニング曲が怖かった。ドラマ自体は美女が活躍するということで毎週楽しみにしていたが、人間を改造することが不気味だったのか、オープニングが流れると緊張した。 兄はカセットテープにオープニングだけ録音すると緊張感を利…

お元気で

母の棺に入れる手紙に小学六年生の甥っ子が「お元気で」と書いていた。大きな字でそれだけ書いていた。今でも思い出すと「もう死んでる!」と突っ込みたくなる。しかし甥っ子は不器用そうで面白い。

50音アニソン

休みの前の夜、寝てしまうのがもったいなくて眠くなるまで、二段ベッドの下段にいる兄と夜遅くまでアニソンをどれだけ覚えているか交互に言い合う遊びをしていた。ルールは、まず50音順の「あ」から始まる歌詞でどれだけアニソンがあるか交互に歌い合う。出…

チコ

ミコの次に家に来た犬は血統書付きのメスのシェルティで名前はチコ。私が小学校3年生の時である。交配目的で母が飼い始めたのだ。餌は味噌汁をかけたご飯ではなくドッグフードである。犬好きの隣の団地の友人を誘って母と三人で散歩に行くこともあった。チ…

六十の手習い

たまたま団地のポストに入っていた夜間中学校の案内チラシを見て、還暦を迎えた母に勧めてみることにした。兄もそれには乗り気で一緒に勧めてくれる。母には友人と呼べる人は一人もいない。プライドが高く頑固な性格だからか、せっかく知り合っても喧嘩別れ…

最初の覚悟

私が定食屋で働いている時、兄は高校を中退して家にいた。私は兄が家にいるのが嬉しくて、時間がある時は一緒にゲームをして遊んだ。母が兄の将来を心配して叔父に相談すると、精肉店を営む叔父が兄に一緒に仕事をしようと持ち掛けてくれた。兄は精肉店で働…

空回り

団地に部屋と風呂が増築されると、母と兄と私が自分の部屋を持てるようになり、三人で食事をすることはなくなった。私は料理を作るとまず兄の部屋に、次に母の部屋に持って行くという順番にしていた。 定食屋で身に付けた腕前で自慢のかつ丼を作った日、いつ…

ミコ

いつからいたのかスピッツのような白い犬がいた。名前はミコで玄関に誰かが近づくだけでよく吠える。府営団地で動物を飼うことは許されていなかったが、母は番犬代わりだといい飼っていた。私が生まれて間もない頃に離婚した相手が時々手紙を送ってくること…

しつけ

母のしつけは行き過ぎる時があった。まだ小学校低学年だったか、着物に使う腰ひもを使って兄の手足を縛ると押し入れに閉じ込めたことがある。どんな悪いことをしたのかわからなかったが、傍にいた私は兄がかわいそうだからやめてほしいと訴えたが母の怒りは…

思いの違い

兄と私は年子である。 兄と私では母への思いが大きく違う。 お通夜、棺の近くで兄と語りあった時、兄から母に対する愛情と感謝を初めて聞いたような気がした。私の自慢の兄は中卒だが結婚してかわいい子ども達がいる。幸せを日々感じられることで「結果良け…

たくさんの思い

一昔前の映像、モノクロの中で人々が活き活きと生活を営んでいる様子や子どものあどけない表情を見ると、この人たちは今どうしているのか、この人たちが抱えていたたくさんの思いがどこにいったのか気になる。 小さな骨壺を抱いた兄は「呆気ないな…」と呟い…

花の記憶

先月、母が亡くなった。 「亡くなる」という表現はどうもしっくりこない。 棺の中を覗き込んでも母が死んでいるとは思えなかったが、 硬くて冷たい手に触れた時、肉体を使った電気交流ができなくなっていたからか、 何も伝わってこなかった。 そこでようやく…