思いの違い
兄と私は年子である。
兄と私では母への思いが大きく違う。
お通夜、棺の近くで兄と語りあった時、兄から母に対する愛情と感謝を初めて聞いたような気がした。私の自慢の兄は中卒だが結婚してかわいい子ども達がいる。幸せを日々感じられることで「結果良ければすべて良し」と言っていた。
私が5、6歳だったか、母にある家に連れて行かれ、その家の男の人に「おじさんの子どもになるか?」と言われたことを忘れない。母は読み書きや計算が苦手な人で、働き先もままならず、二人の子どもを育てる自信がなかったのかもしれない。
私の引き取り手は二人いた。
顔合わせが終わった夜の帰り道で私は恐怖のあまり泣き続け、炊事や洗濯、家の用事をやるから今のままでいたいと訴えた。母は無言で腕を組み、何かを睨みつけるような顔で歩いていた。その話を兄にすると、驚くことに兄は何も知らなかったようで「おまえ、それは墓まで持っていく話だ!」とドン引きされ、なぜ話してはいけないのか今でもわからない。
里子に出されなかったことへの感謝の気持ちは、兄の子が兄に感謝する気持ちと同じくらいあるのに、私も母への感謝の気持ちを話したかった。