ingakouryuu’s blog

心象スケッチ

チコ

ミコの次に家に来た犬は血統書付きのメスのシェルティで名前はチコ。私が小学校3年生の時である。交配目的で母が飼い始めたのだ。餌は味噌汁をかけたご飯ではなくドッグフードである。犬好きの隣の団地の友人を誘って母と三人で散歩に行くこともあった。チコは長毛だから排泄物が毛にくっつきやすく、そのせいかよくコンクリートにお尻をつけて前足だけで前進するようなことをしていた。母はその姿がみっともないと嫌がり、リードを強く引っ張る。チコはおとなしくて滅多に吠えない。好奇心旺盛で賢くて可愛かった。

 

 

チコは家に来て一年と経つことなく死んだ。玄関の隙間からいつの間にか外に出てしまい、誰もチコがいないことに気づかなかった。突然、一緒に散歩に行ってた友人が「道路にチコが倒れているよ!」と教えに来てくれて、初めてチコがいないのに気づいたのである。団地の前は車の通りが多い歩道のある道路だ。母と私が急いで現場に行くとチコは血まみれで道路の脇にぐったりしている。母はチコを抱いて帰り、広げた新聞紙の上に置くと「チコはバカな犬だ!」と言い涙を流した。チコに触るとまだ温かく、私は突然の出来事に呆然としていた。

 

 

深夜、私の自転車の荷台にチコを入れた段ボールを固定して、母と二人で家から遠い所にチコを置きに行く。当時はペットセレモニーという概念がなく、母の指示通りに川底に段ボールを落とした。怪訝そうに通りすがりの人に見られたこと、段ボールが川に落ちる手前のでっぱりで止まったこと、いつまでも覗き込んでいる私に母が帰ることを急かしたこと、はっきりと覚えている。死というものを初めて見たのがチコだったが、死よりもチコがこそこそと処理されたことがショックだった。