ingakouryuu’s blog

心象スケッチ

入院事①

中一の冬、吹雪の中、私は自転車の後ろに母を乗せて病院に行く。胸の痛みと息苦しさでしんどいはずなのに、私に雪が当たらないように後ろから母は傘をさしかけてくれる。私が傘はいらないと言っても母は傘をたたまない。

 

診察を待つ間に母は動けなくなってしまい、その日から入院することになる。原因は煙草の吸い過ぎによる心臓病だった。入院中も母は隠れて煙草を吸い続けて、見つかっては注意されることを繰り返す。私は母を元気づけるために犬のリコをこっそり連れてお見舞いに行っていた。

 

母が退院する前日、兄は学校から帰ると夕食も食べずに布団に横になっている。どうしたのか聞くと、気分が悪いという。夜の8時だったか兄が急に布団を跳ね上げて、私に必死の形相で「苦しい、救急車、救急車を呼んでくれ!」といい、そのまま外に飛び出して行く。私はびっくりしてドキドキしながら我が家に設置されて間もない電話機の受話器を震えながら持ち上げて救急車を呼ぶ。

 

救急車を呼んでいる時、外から大きな音がした。後から分かったのだが、兄が苦し過ぎて団地の上の階まで行き、そこから柵を乗り越えて飛び降り、コンクリートの地面に落ちた音だった。私は電話の後で慌てて外に出て兄を探す。団地を出てすぐの所に兄がぐったりと横たわり足や手から血が出ている。私は怖くて動けなかった。

 

大きな音に気づいた他の住人も集まってくる中、救急車がようやく到着する。救急車はまず母が入院している市民病院に行くが、もっと大きな病院でないと治療ができないということで応急処置だけすると都心部にある医大病院に移ることになる。入院中の母も一緒に救急車に乗り医大病院まで行く。救急車の中で暴れる兄の足を押さえるように隊員に言われ、母と私は必死に足にしがみつき押さえる。医大病院は遠く、母と私の体力は限界に近づいていた。