ingakouryuu’s blog

心象スケッチ

空回り

団地に部屋と風呂が増築されると、母と兄と私が自分の部屋を持てるようになり、三人で食事をすることはなくなった。私は料理を作るとまず兄の部屋に、次に母の部屋に持って行くという順番にしていた。

 

定食屋で身に付けた腕前で自慢のかつ丼を作った日、いつものように兄の部屋にまず持って行く。次に母に持って行くのだが、その前に何気に兄の部屋を覗いた。まだかつ丼は手つかずのままである。兄は漫画本に夢中で、私は出来立てを食べてもらえなかったことにがっかりする。兄の部屋にある少し冷めたかつ丼と次の出来立てを交換して、少し冷めたのを母に食べてもらうことにした。最後に自分の分を作った時、再び兄の部屋を覗くとまた手つかずである。仕方なく少し冷めたのを私が食べて兄には出来立てをと交換する。しばらくして「俺が猫舌で冷ましていたら熱々と交換されて、腹が減ってるのに全然食べれない!」と兄の声が部屋から聞こえた。

 

カレイの独特の味が好きで、よくおかずにしていた。ただ焼くだけである。兄の部屋に持って行くと「骨があるからな~」と言い、嫌そうな顔をされる。仕方なくカレイの骨を取り、白身だけを皿に乗せて出すと「俺はカレイが嫌いだ」と言われ、子どもの頃からけっこう食べていたはずなのに、カレイが嫌いだったことを知った。三人で食べなくなってから私の料理は空回りした。