ingakouryuu’s blog

心象スケッチ

ポケットティッシュカバー

 

昔、働いていたお店にちょくちょく買い物にくる年配の女性がいた。買い物ついでに世間話をしていく気さくな人で、仕事の領分を気にしないで冗談を言う私との会話を楽しんでくれた。

 

ある日、彼女はラブレターを渡すように恥ずかしそうにティッシュカバーを何個か取り出すと、気に入ったものがあればもらってほしいと言う。花柄、水玉、格子とかわいい布で作られたカバーは、着なくなった古い着物やブラウスで作ったそうだ。取り出し口の縫い目が花模様だったり、襟の形にしてあったり、ただの長方形ではなく両袖まで付けてあるものもあった。どれも細部までこだわって遊び心を感じる。私は姪の分も欲しがって二つももらってしまう。彼女は「家族からはもういらないと言われたから、気に入った人にあげてるの」と言っていた。

 

ふと、今あの人はどうしているのだろうと思い出す。ご高齢だったなと。もらった時は、裁縫が趣味なんだと思ったくらいで特に何も考えなかった。思い出の服にハサミを入れて新しい物を作り、それを気に入った人にプレゼントしていくとか、すごいことだ。今はもう顔よりも細身の優しそうな人だったとしか覚えていない。

 

何かリレーでたすきをもらったような気分。そう思えるようになったのは私もそれなりに年齢を重ねてきて、自分が命の循環の中にいることを意識するようになったからだろうか。

 

通勤カバンの中には、少しだけ色褪せたカバーを付けたティッシュがある。