ingakouryuu’s blog

心象スケッチ

保昌山のご利益

 

顔に強いコンプレックスがある友人がいた。今はどうかわからないが、当時は外見ばかり気にしていた。整った雅なきれいな面立ちなのに、彼女は松浦亜弥が理想で「あんな顔に生まれたかった」と度々言っていた。

 

 

大学生の時、彼女には同い年の恋人がいた。面倒見のいい彼女は、彼氏が欲しいというクラスメイトのために、祇園祭の保昌山の粽をたくさん配ったそうだ。保昌山は縁結びのご利益を授かることで知られていて、自分で買うのではなく人からもらうことで特に効果を発揮するのよと誇らしげに言っていた。配られた友人は次々と彼氏ができたそうだ。しかしその後、彼女は後輩に恋人を取られてしまい、自分だけが彼氏がいない状態になったと、やるせない気持ちをずっと引きずっていた。そんな時、バイト先で私と知り合う。

 

 

ある日、夕食を共にすると外で少しだけ話そうと公園のベンチに座った。夏場で外が気持ち良かった。翌日休みでお互いがゆっくりできるということもあってか、もうこんなこと生きててないと思うほど、これまで生きてきた年数を凝縮したような濃い話を空が白み始めるまで語りつくした。

 

 

彼女は十年近く、ずっと別れた恋人のことを忘れられずに毎年保昌山の粽を求めて京都を訪れる。後半は「もうこれでダメだったらいよいよだな」と言い出すところまできていた。恋愛でそこまで執着する気持ちがわからない私は、いよいよとなったらどうなるのかどきどきした。しかし彼女は一瞬のチャンスを逃さなかった。彼が後輩と別れた噂を聞きつけると、同窓会を理由にうまく寄りを戻すことに成功する。その後、結婚して今は子育てに奮闘している様子がうかがえる。彼女の強い思いが最後どうなるのか、どこに落ち着くのか怖かったが、願いが叶って心底安心した。

 

 

旦那さんは有名な漫画家さんで、披露宴の席では旦那さんの本がたくさん紹介されていた。好きなことを続けさせてくれた両親に感謝を述べている旦那さんに胸が熱くなった。

 

 

彼女は今でもすべて保昌山のおかげだと思っている。