ingakouryuu’s blog

心象スケッチ

隣の友人

隣の団地に小学校からの友達がいた。彼女は父親とお兄さんの三人で暮らしている。母親がいない理由は聞いたことはない。そんなことに興味はなかった。遊びに行くと彼女のお父さんが気さくに挨拶をしてくれる。

 

 

彼女はどことなく私の母の性格に似ている。そして私の知る限り誰よりも誇り高い。彼女は一緒に遊んでいても気が乗らなくなったら何も言わずに途中で帰ってしまうこともある。仲間外れや意地悪をされたと、何かの拍子に勘違いをしたのかもしれないが、突然帰ってしまったことの理由を説明することもなければ謝ることもしない。私は彼女と同じクラスになったことはないが、学校で見かける彼女は大体一人だった。

 

 

三人でポーカーをして遊んでいる時だった。一人がインチキをしていることに気づいた彼女は憤慨する。インチキをしていた子は「ごめん、ごめん」と謝っていたが、彼女の怒りはおさまらない。私が遊びだからと気にしていないのに対して、彼女はインチキをしていた子に土下座までさせていた。横で私はげらげら笑っていたが。

 

 

彼女を例えるなら『ちびまる子ちゃん』の野口さん。不思議なことに外見もそっくりだ。オカルトや占いといった神秘的なことが好きで、そういった関連の本を探して一緒に古本屋巡りをしたこともある。

 

 

彼女も私と同じように中学校から紹介された工場で働いていた。すぐに辞めた私と違い、彼女はここしかないと思って必死に働いていた。ある日、彼女が帰宅すると父親が首を吊って亡くなっていたという。二十代前半だったか、彼女と久しぶりに会い、新しくできた商業施設に遊びに行った帰りに彼女は静かに話してくれた。さっきまで私の冗談で笑っていたはずの顔がそこにはもうない。あの優しそうな父親に何があったのかはわからない。ただ仕事から帰って発見した彼女の気持ちを考えると、とたんに頭にもやがかかる。

 

 

その後、私が一人暮らしを始めて数年が経ち、次に引っ越しを考えている時、彼女から新しい家に遊びに来てほしいと連絡があった。会いに行くと彼女は結婚していて旦那さんを紹介してくれた。旦那さんが私を見る目で彼女の身内のように迎え入れられたことに気づく。旦那さんの家族を紹介してもらい、二人で私を挟むようにして歩いて、近所の豊かな自然も見せてくれる。彼女のお兄さんは早くから家を出て、それきり連絡が取れなくなっているそうだ。将来を考えてバリアフリーで建てたと嬉しそうに部屋を案内する彼女からは寂しさのかけらも見つけられない。今は二人の子育てに毎日忙しく賑やかにしている様子が時々来る葉書から垣間見える。