ingakouryuu’s blog

心象スケッチ

曼殊沙華②

サークルで知り合った院生の二人も知っている人で、トランスジェンダーの人とも関わることがあった。私はトランスジェンダーに興味はないが、50代にしてはドラえもんのように愛くるしい独自のキャラクターを固めているのが気になった。この人は出会って初対面で近々胃がんの手術で入院するため、飼っている猫の世話をしてほしいと頼んできた。うさん臭かったが話は本当で、両親は他界して身寄りがないため、ワークショップ等のコミュニティを利用して自助グループとの繋がりを支えに生きているようだった。両親のどちらかは中国人だと聞いたことがある。朝迎えに来るトラックの荷台に大勢の人が乗り込む。乗れた人だけが作業現場に行き、その日の労働にありつけるという仕事を父親がしていたとか、父親が好きで仕事について行くと作業現場で配られる薄いお汁粉を食べさせてくれたと、それがおいしくて楽しみだったと話していた。

 

 

その人は2階建てのアパートの角部屋、小さな台所が付いた四畳半の部屋に住んでいた。狭い部屋に猫が六匹もいた。夏、日当たりの良い部屋はエアコンの音はするが汗ばむ暑さで猫たちもぐったりしている。コギン、コウメ、ツートン、ムサシ、あと二匹の名は忘れた。みんな可愛いが「猫」という感じがしない。学校帰りに餌をあげてトイレの掃除をする。ゴミは持ち帰り自宅のゴミと一緒に捨てる。私以外に世話を頼まれた人がもう一人いた。その人はパピーといい、連絡事項を置手紙でやりとりしていたが一度も会ったことがなく、時間を合わせてお茶をすることにした。そこでパピーさんは謝礼をもらっていることがわかり、私にも請求したほうがいいというが、謝礼をもらう考えが薄く、ただ単に猫が好きで世話を続けた。

 

 

手術は無事に終わるはずだったが、手術後の痛みが引かないので調べてみたら、ガーゼが入ったまま縫合されていたことが分かった。もう一度開腹してガーゼを取り出すことになり入院はその分長引いた。その後は順調に回復していき、胃がんで手術をした人とは思えないほど元気に復活した。まるで『沈黙』に出てくるキチジローのようにこの人は全てにおいてタフだった。入院中も少しでも体を動かせるようになると病院のごみ箱から何かのキャンペーンシールを探して集める。卒業する一人暮らしの学生から譲ってもらったのだろうか。身の回りの家具や電化製品のほとんどはもらったと言っていた。ある人はお金を渡して旅行を勧めたとか、しかし旅行に行かずにそのお金を全部パチンコにつぎ込んだとも聞いたことがある。もらえるものは無遠慮にもらう。この性格に振り回されるからか、大勢の人と知り合いのようで深く繋がれる人は少ない。何か私にできることはないかと考えている人は大体世話を焼いてしまう。私もその一人だったのかもしれない。