ingakouryuu’s blog

心象スケッチ

古い体質

 

他部署で起きた出来事になるが、会社の商品で月に一度三日間、破損品を百貨店で販売することがある。大変な人気のため予約は受け付けない。当日は開店と同時に殺到することを見越して販売員を増員して混雑を防ぎ、数量限定の売り切れ終了にしている。

 

袋の中央には正規の商品ではないことを強調した「ご家庭用」と大きく印字されている。しかしその日は餞別に使いたいから袋を二つ重ねて包装してほしいと言ってくる客がいた。店頭には「ご奉仕品につき包装はご遠慮願います」のPOPが掲げられている。販売員は丁寧にお断りをした。すると客は俺をせこい人間だと思ったなと急に立腹してマネージャーを呼べの一点張り。販売員はマネージャーが売り場に来るまでの間に以前も買いに来たお客様であることを思い出す。その時はマネージャーが自分の社員カードを前もって売り場に預けに来ると、これから来るお客様にこのカードを使用して1割引するようにと、そしてくれぐれも粗相がないようにと念を押していたなと。その時は包装を頼まれることもなく何事もなかったが、マネージャーの態度が物々しかったので印象に残っていたそうだ。

 

さて売り場にマネージャーが来ると、客は勝手知ったる様子でいつもの所に行こうと先頭を切って歩き出す。行先は百貨店最上階の応接室だった。向かう途中、マネージャーは携帯で前もって連絡をしている。応接室に着いた時には客と顔なじみの顧客対応係が「今日はどうされましたか」とすぐに声をかけてくる。客はいつもの感じで定位置に先に座ると同じ話を繰り返す。「俺をせこい人間だと思ったな」と。顧客対応係とマネージャーも共に客と一緒になって販売員の言い分を聞くような空気はない。ひとしきり怒りをぶつけた客はすっきりしたのか会計を済ませようとすると、マネージャーは当たり前のように自分の社員カードを差し出した。販売員は異常な空気が怖くて反論ができなかったそうだ。

 

客が帰った後、販売員は顧客対応係とマネージャーとで包装しろと説教をされる。客がいなくなって言いやすくなったと思い、販売員は会社から包装をするなと言われていることを言う。しかし顧客対応係は販売員の出身を聞くと地域性の違いで起きる個人の問題へと話をすり替えて聞く耳をもたない。やっと解放してもらった販売員はすぐに会社に電話をして今あった出来事をつぶさに報告した。百貨店の部長が翌日出勤ということで問題は一日先送りにされる。そして翌日、驚くことにまたあの客が売り場に現れる。昨日の上下黄色のジャージという派手な服装とは違い、その日は地味なスーツだった。そのため「いらっしゃいませ」の声かけは素早くできたが、昨日の客だと気づくのが遅れ、また気づいても恐怖で絶句してしまう。すると客は「先に声かけろ!」と一言発して足早に去っていく。買い物に来たという感じはなかったそうだ。それからすぐに客はマネージャーに怒りの連絡をすると、また販売員はマネージャーから連日注意をされることになった。注意の内容はすぐに気づいて先日の無礼を謝らなかったこと、追いかけて謝らなかったことだった。販売員が怖かったと言うと「どうしようもないやつだな」と言われる。またその後、違うマネージャーからは、あのお客様はここの商品が好きだからまた買いに来られるからその時の対応マニュアルとして、名前を言われるのは好まないから「存じ上げております」という対応をすること、私服で見かけたら決して声をかけないようにプライベートに関わってくるなと立腹されるとか、しかし目を合わせてきたら挨拶をすること、そして派手な服装だから遠い所からロックオンして待ち構えて先に声をかけるようにと言ってくる。

 

しかし当然、販売員は人権にかかわるような侵害を受けたことと、今後も会社の方針通りに奉仕品は包装しないことを貫くにはどうしたらいいかを上司にすぐ相談した。上司が百貨店の部長と直接話をすると、部長は販売員にあんな客を飼いならしていることについて、怖がらせたことについて謝罪してきた。しかし、それで今後はどうするのかということについては議論が進まない。結局、こちらは百貨店から頼まれて仕方なく売り出していたイベントだったこともあり、イベント自体をやめることで落ち着く。

 

今回のことで古い体質の百貨店の裏側を知り、異常な客のいいなりであることが浮き彫りにされた。本社から行かされる催事要員も、ある程度のベテランでないと人間不信になりかねない案件だった。百貨店がどんどん縮小されていく原因は、人口の減少やネット通販の拡大等いろいろ考えられているが、経営不振の具体的な中身は百貨店で働きたい人が少ないということもあげられるだろう。