ingakouryuu’s blog

心象スケッチ

眼鏡

初めての仕事は高校に行きながら勤務できるところで、中学校が紹介してくれた製作所だった。その頃はまだ学生気分が抜けずに遅刻を繰り返していたため、とうとう居づらくなり辞めてしまう。私は世間知らずにもほどがあるくらい無知だった。看護師募集の広告を見ては資格も無いのに働かせてもらえると思い面接希望の電話をかけたこともある。電話に出た人がどこから説明していいのかびっくりしていたのを思い出す。看護師は資格がいるということすら知らなかったのだ。そんな私をベルトコンベアーの流れ作業ではなく事務員で採用してくれた会社があった。しかしここでは何もまともにできないため一から教えてもらい、迷惑を掛けただけの記憶しかない。

 

事務作業中のことだった。私は自分の机からオフィスの壁際にあるホワイトボードの日程を保存するために目をしばしばさせて日報に書き写していたら、社長と専務が私の目が悪いことに気づいて眼鏡を買ってくれることになる。目が悪いのはドラクエをやり過ぎたせいなのに。

 

専務からメガネスーパーの割引ハガキをもらうと駅から店までの道順を何度も聞かされる。その頃、仕事で注意ばかりされていたからすべてにおいて自信がなく、入ったことのない店で触ったこともない眼鏡を買えるか不安だった。買い物は業務時間内で行かせてくれるため、よけいに間違えたら申し訳なく気が重くなる。

 

電車に乗って買いに行く。駅からまっすぐに歩くだけだと教えられた通り、メガネ屋にはすぐにたどり着き、お城のような立派な建物に圧倒された。

 

店内は広くてきらきらしてて緊張したがつきっきりでいろいろ説明してくれるスタッフに肩の力が抜けていく。まず好きなフレームを選ぶ。窓側の光が差し込む台の上に置いてある赤いべっ甲のフレームにする。中央に赤い絨毯が敷かれた大きな階段を上り視力を測る。そしていよいよ会計という時に専務から持たされた割引のハガキを出す。一瞬で周囲が息を呑むのがわかった。店を間違えていたのだ。

 

メガネスーパーではなくメガネの三城に来ていたのだ。店を間違ったからと言って、優しく接客してくれた三城を断る勇気はなかった。持たされたお金は3万。何かあった時のために多めに持たせてくれているが、ちゃんとメガネスーパーで買っていたら1万で買えたものを3万円以上する買い物をしてしまう。足りない数千円はちょうど私の財布にあったので全額支払うことができた。

 

帰り道、メガネスーパーがビルとビルの間にあったのを見る。私は気づかずに通り過ぎていたのだ。店名を確認しなかったミス。帰りの足の重さは尋常ではない。毎日仕事でもへまばかりしているのに、またこんなどんくさいことをしてしまい情けなかった。

 

職場に戻ると領収書と眼鏡を確認してもらう。社長と専務に呆れられたが、根が優しい人たちだから長く責めることはなかった。今でもその時の眼鏡しか私には無い。大切にこれからも使っていきたい。