ingakouryuu’s blog

心象スケッチ

後ろの大きな足音

 大きな足音を立てながら私の後ろを歩く人がいる。たまたま同じ方向、同じエレベーターに乗り込もうとしているだけの人。それなのに足音が大きいので迫ってくるような感覚に襲われる。最短のルートを通り早歩きをしても足音はまだ近くに聞こえる。失礼な気がして後ろを見ることはできない。なかなか引き離せないので次の角を曲がった時、距離を一気に離そうとダッシュした。しかしダッシュが弱かったのかまだ足音は近い。同じエレベーターに乗ったらゲームオーバーのような気がした。最後の角は猛ダッシュしよう。角を曲がり急いでいる私を見た清掃業者のいつものおじさんは、運んでいたゴミを放り出して、来た道を急いで戻り、再び現れると「エレベーターのボタンを押しておいたよ!」と言う。特に用事もなく急いでいる私のために仕事を中断してくれたおじさんに申し訳なく笑いながらお礼を言い、エレベーターに乗り込む。おじさんのおかげでミッションがクリアできた。おじさんは二本しかない下の歯を見せて笑っていた。