ingakouryuu’s blog

心象スケッチ

栄養と歯

母に連れて行かれた歯科医院は四角い白いコンクリートの殺風景な建物だった。何をされるのかわからない怖さで足がすくみ、病院までの長い道のりをのろのろと歩いていると早く歩くようにと母に急かされる。

 

治療後、医師が「お母さん、娘さんの歯は溶けるように削れます。カルシウム不足で栄養が足りていないため歯も黒く透明です。」と言っているのを聞き、私はどうしたらいいのかわからないが、自分が大変な状態になっていると思いどきどきした。

 

母は病院からの帰り道「何も食べさせていないようなことを言われた!」と怒りをあらわにする。私は歯が悪くなったのはしっかり磨けていなかったからだと思っていた。思えば、子どもの成長や健康を考えたら梅干しや冷ややっこだけのおかずはおかしいなと、貧乏だからというよりも栄養に対する知識がなかったのだ。

 

兄は給食でおかわりをして、子分のような友人に食べたいだけおごってもらっていた。お菓子の空き箱や袋のゴミが一日で足の踏み場も無いくらい部屋に散乱することもある。栄養が足りていたかどうかはわからないが、兄は自力で身長を伸ばして体を大きくしていた。それに対して私はおいしいものには興味はあるが、お腹を満たすことには興味がなかった。

 

私も小学校高学年になって母から毎日千円をもらい食事を作るようになってからは、味噌汁は濃く、透明なカレーもなくした。おかずは一品ではなく二品は作ったが、それでも栄養をどれだけ意識できていたのか、時間はかかったが歯は少しずつ根元から白く分厚さを取り戻していった。歯の表面からでも木の年輪のように歴史が刻まれているのがわかる。

 

小学校の卒業アルバムの大きく写された単独の写真は歯を見せて笑っているが痛々しい。