冷ややっこ
我が家のおかずは常に一品だ。
母の買い物にはよくついて行った。母は複雑な料理をあまりしないから買い物も簡単だ。豆腐屋に行くと木綿豆腐を三丁買ってそれで買い物は終わる。
沈んでいる豆腐をふわりとすくい上げて水の中で手のひらに乗せると、包丁の刃がすぅーと豆腐に入れられる。その瞬間が好きで見入ってしまう。カットした豆腐は深くて四角いプラスチックの容器に入れられ、水が漏れないようにフィルムで蓋をされる。豆腐三丁は重くて母の腕にビニール袋の取っ手が食い込む。
夕飯の食卓では容器から出された10センチ四方の豆腐がそのまま皿に盛られ、鰹節がかけられている。兄は豆腐の豆が変わったことにも素早く気づき、店に確認するとその通りだったことがあるほど豆腐通になっていた。
私は醤油をかけた冷ややっこの上の鰹節でご飯を食べると、残った冷ややっこを必死で食べる。冷ややっこは嫌いではないが一丁は量が多すぎて苦しかった。