コーヒーの味

母が持ち手の付いた陶器のカップを三つ買ってきた。それまで使用してきたのはプラスチック製のカップか、陶器だと『ミクロイドS』の湯飲みだった。

カップは三つ。こげ茶でヨーロッパの街並みが細かく描かれているものと、その色違いの白バージョン、もう一つは茶色の縁がプリンのカラメルのようにクリーム色のボディに垂れているような模様のシンプルなものだった。兄は素早くこげ茶を選ぶと色違いを母にと勝手に決める。私が絵の無いカップがつまらないと駄々をこねていると、初めからそのつもりだったのか、母はカップを交換してくれた。今なら飽きやすい絵よりも素朴なカップを選んでいたかもしれないが、幼い時は細かい模様やカラフルなものに目を奪われやすい。

我が家のコーヒーはネスカフェゴールドブレンド、クリープはマリームでもブライトでもいいけど、一番好きなのが森永。粉末のまま食べても美味しい。私はコーヒー無しでクリープに砂糖を入れてホットクリープ？で飲むこともあった。 

何年か前、お正月に兄宅に遊びに行った。義姉さんは花びらの形をした特別な茶器を使い、もてなしてくれる。美味しい鯛めしを食べた後、デザートにケーキが出された。兄がゴールドブレンドでコーヒーを淹れてくれる。「にぃーの淹れたコーヒー！ゴールドブレンド！」「おいしいな！すごいな！」と、何十年ぶりか、兄の淹れてくれたコーヒーに興奮した。はたと我に返って周囲を見回すと、兄も義姉さんも顔を赤くしていたので、私も赤くなった。

家ではカップにセットしてお湯を注ぐだけのドリップコーヒーをたまに飲んでいる。自分のために自分で淹れるコーヒーはそこそこ美味しければそれでいい。