ingakouryuu’s blog

心象スケッチ

三本の糸

 

今週のお題「大人になったなと感じるとき」

 

 

幼い頃、兄は毎日悪夢にうなされていた。自分の置かれている立場を意識し始めて、頼りない母と私を抱えて生きていくことのストレスを就学前からすでにもっていた。

 

兄がうなされているのを母と私が気づいて起こす。発狂寸前の状態だった。汗まみれの兄は夢の内容を語ろうとするが恐ろし過ぎて言葉が追いつかない。少しだけ覚えているのは三本の糸、私たち家族を象徴するような糸だったようだ。その糸は弱々しく今にも切れてしまいそうだったと言う。「俺がどれだけ苦しんでるか、お前にはわからない」とよく言われた。私は未来を憂うこともなければ、今を嘆くこともない。ただふざけて、はしゃぎまわっていた。『火垂るの墓』の兄妹みたい。実際は一つしか年が違わない年子なのに、私はあまりにも幼かった。

 

兄は友人から譲ってもらった白黒テレビでアニメを観るようになると、狭かった世界が少し広がったのか、あれほど苦しんでいた悪夢を見ることはなくなった。

 

たった一人で母と私を養うことを考えていたなんて、兄は幼い頃から大人だった。